結末が想像できない。『すべて真夜中の恋人たち』の感想

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『すべて真夜中の恋人たち』 

タイトルに惹かれ、手に取りました。

毎晩寝る前に少しずつ読み進めて、先日ようやく読み終わりました。

 

読んだ感想を一言でいうとしたら、色のうすいお話だなあ、という感じです。

色っていうのは、一応恋愛のことも含みますが、それ以上に、話の波というか、印象というか、そういう意味です。

 

そして、読み進めていくうちに、どこに着陸するのだろう、という思いを抱かずにはいられません。

 

どういう終わり方をするのか想像つかない。

そんな小説『すべて真夜中の恋人たち』の感想を書きたいと思います。

 

 

 

あらすじ

 

フリーランスの校閲者である主人公・入江冬子は、ただぼうっと日々過ごしてきた。自己主張もせず、話すことも得意じゃない彼女は、ある日、街を歩いているときに押し付けられた大量の広告の中から、カルチャーセンターの総合案内誌に見入る。ページをめくっているうちに、ちょっとした興味わいてきて、その週の日曜日に近くのセンターに赴くが・・・。

 

 

色がうすいからこそ際立つ言葉たち

冬子のぼうっとした気質がよく表れているお話になっています。

カルチャーセンターで出会った男性・三束さんとの関係もあいまいなまま物語は進んでいきます。

とにかく山も谷もありません。一定の調子でゆっくりゆっくりと進んでいきます。

 

だから読んだ印象としては、うすい。

けっして内容がうすいのではなく、言うならば印象がうすい。

 

ただ、そんなうすい調子だからこそ、登場人物の発する言葉の重さが際立って、しかも突然、胸を突いてくるのです。

 

 

「信じられる?人が人に向かって、こんなにも言いたいことがあるなんて」

冬子の校閲の仕事の担当をする石川聖が、冬子に向かって発した言葉です。

 

聖に渡した、校閲を終えた原稿は、600ページもありました。両手でもってもかなりの重さがあり、手首がぐらりとするくらいです。

そんなにも人が人に伝えたいことがある、聖はそんな風に笑って言いますが、曲がりなりにもブログで情報発信している身としては、クるものがありました。

 

 

以前Twitterでこんな風につぶやいたことがあります。 

 

3000字ってかなりの量ですよね。それでも、それだけ書かないとものすごく物足りない気がするし、内容も薄っぺらい気がする。

文章量を感じさせないような記事でも、やっぱりかなり文字数があったりします。

人が人に伝えたいものがある時は、それだけ書かなきゃいけないんだろうなあと思うと不思議な気分になるのです。

 

 

「与えられたものを、・・・どれだけ捨てられるのかが大事だと思うんだ」

冬子の高校時代の回想の場面。

なぜか電話をするようになったクラスメイトの水野君が発する言葉です。

 

この言葉のあとには、こう続きます。

 

「…… 家族 も 家 も、 親 も、 学校 も、 この 町 もさ、 何 ひとつ 僕 が 選ん だ もの じゃ ない ん だ よ。 そんな もの ばっかり が 狭い ところ に 窮屈 に せめぎ あっ て い て、 何もかも が ぞっと する よう な 退屈 さの 延長 に あっ て、 ゆるみ きっ てて、 みんな そろい の お 面 でも つけ てる みたい に ぼうっと し た 顔 し てさ。 ぞっと する ん だ よ。 退屈 と 停滞 を、 平和 とか 安心 な ん かと 取り違え てる ん だ よ。 この 町 の やつ ら は みんな 牛 みたい な もの さ。 ぼ お ぼ お 鳴い て、 ぞろぞろ と かたまっ て 動い て 草食 って 眠っ て、 子ども を つくっ て、 それ の くりかえし な ん だ。 何 にも 考え ない で そう やっ て 生き て いく ん だ よ。 そういう のが ぞっと する ん だ よ。…… 僕 はね、 ほんとう は 東京 に 行く とき に 名前 だって 変え た いくら いなん だ」

 

「だから 僕 は ここ をでて 行く ん だ よ。 自分 で 選ん だ もの だけで 関係 を 築い て、 自分 で 選ん だ もの だけを 生きる のさ。 誰 も 僕 を 知ら ない、 僕 も 誰 も 知ら ない ところ へ 行っ て、 僕 は 僕 の ほんとう の 人生 を つくる ん だ。 僕 の 人生 はね、 まだ 始まっ ても い ない ん だ よ」

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

 

 

自分で選んだものだけで生きる。

そんな風に生きていけないことに、ぞっとするのは確かかもしれない。

 

それでも、そんな風に生きていくのは難しい気がするのは、僕がまだ何も選んでいないからか。

 

 

「入江くんがもうわたしの人生の登場人物じゃないからなんだよ」

冬子が高校生のとき仲の良かった早川紀子が、冬子に夫婦仲がよろしくないことを打ち明けたあと、最後に放った言葉です。

 

「…… わたし ね、 夫婦 の 仲 が うまく いっ て ない こと、 誰 にも 言っ て ない ん だ」

すこし あと で 典子 が 言っ た。

「由井 くん にも 言っ て ない の。 ママ 友達 とか、 地元 の わり と 仲 いい 友達 にも、 誰 にも 言っ て ない の。 入江 くん に はじめて 言っ た の」

「うん」

「なんで 入江 くん に こんな 話 でき た のか って いう とね」

と 典子 は 言っ た。

「それ は、 入江 くん が もう わたし の 人生 の 登場 人物 じゃ ない から なん だ よ」  

典子 は わたし の 顔 を み て、 にっこり と 笑っ た。

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

 

 

笑みを浮かべて人に言える言葉なのだろうか。

頭に場面を思い描きながら読み進めたとき、とてもぞっとした。

 

冬子じゃないけど、高校時代のそれなりに楽しかった場面は霧がかって消えていくようでした。

 

それでも、自分の人生の登場人物じゃないから言えるってこと、あると思うんです。

例えば、電話でのいじめ相談所だったり、愚痴聞きますっていうサービスだったり・・・。

あれは、相手が全く自分の世界の中に生きていないからだと思うんですよね。

とても親しい友人に言えなかったことがすんなり言えたりする。

あくまでも他人だから、っていうのがあると思います。

 

逆の視点から考えると、カウンセラーの方。

相談してきた人に感情移入しちゃって鬱になるとか、たまに聞く話ですけど、その必要なんてないんだろうな、と考えてしまいます。

相談者にとって、カウンセラーなんて道端の雑草、劇だと村人Aです。もしくは、エキストラの一人。

いなくたって、物語は滞りなく進んでいけます。

 

非情にも感じるこの視点にどう付き合っていけばいいんでしょうね。

 

 

結末が想像できない

一定の調子で続いていく物語は、ページをめくるごとに終わりに近づいているはずなのに、全然終わりが見えませんでした。

 

どこに着陸するのだろう。

 

そんな思いを抱えながら、ページをめくる手は止まらなかったです。

 

冬子が恋心を抱える相手は、カルチャーセンターで出会った男性・三束さん。

次第に会う回数は増え、喫茶店で静かに語り合うのが二人のいつも通りでした。

冬子はいつも三束さんのことを考えるようになり、恋心を自覚するようになるのですが、それ以上の関係になりたいと思ってもなかなか行動に移せません。

 

大人の不器用な恋愛、と片づけられればいいのですが、不器用にも程遠い形のない恋愛が描かれています。

 

 

自分から行動することも気持ちを伝えることも苦手な冬子はどうするのでしょうか。

三束さんと心を通わせることはできるのでしょうか。

 

どんでん返しとまではいきませんが、ああ、と思わず声を漏らしてしまいそうな結末が無情にも冬子に似合っていると感じてしまうのでした。

 

 

今日の散歩道

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うすい、うすいとか言いつつも最後まで手が止まらないくらいおもしろいお話でした。

 

この手の小説を久々に読んだ気がするのですが、たまに読むと面白いですね。

ごってごての恋愛小説は苦手だという方も抵抗なく読めると思います。

 

個人的には失恋した後に読みたいです。

 

 

 

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